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2022/06/01 レース

ツール・ド・熊野 2022 総括

 2022年5月2729日の日程で行われた第22回 ツール・ド・熊野 2022UCIアジアツアー2.2)。世界遺産・熊野地方をめぐるこのステージレースは、日本棚田百選にも選ばれた丸山千枚田やクジラの町・太地町の美しい海岸線などが舞台。その変化に富んだコースは本場欧州のそれを思い浮かべさせ、だからこそ生まれる激しいレース展開も、この大会の魅力のひとつとなる。熊野の3日間の戦いを振り返る。

◾️明暗を分けたボーナスタイム

ある選手が言った。「自転車ロードレースは負けるスポーツだ」と。チーム戦ではあるが、個人に順位がつく。1位の選手を「勝ち」とするならば、それ以下は「負け」。年間100レースを走って、3レース勝っても97レースは負けなのである。エースならまだしもアシストならば、プロの間に一勝もできない選手もいる。
それを受け、今回のツール・ド・熊野(以下熊野)の成績を見てみよう。各ステージの勝者は第1ステージから順に

・窪木一茂選手(チームブリヂストンサイクリング)

・レオネル・アレクサンダー・キンテロ・アルテアーガ選手
(ベネズエラ、マトリックスパワータグ)

・ライアン・カバナ選手(オーストラリア、ヴィクトワール広島)

一方、総合順位は1位から、

・ネイサン・アール選手(オーストラリア、チーム右京)

・松田祥位選手(チームブリヂストンサイクリング)

・小林海選手(マトリックスパワータグ)

つまり、総合トップ3は、今回の熊野で一度も「勝っていない」。ではなぜか? 結局アール選手は、初日のフィニッシュラインでついたボーナスタイム(2位で入ったので総合タイムから6秒マイナス)を守り切ったのである。ここが総合タイムを争うステージレースの難しさで、2位の松田選手も第3ステージの中間スプリントポイントで3秒のボーナスを得て前日7位から浮上。逆に小林選手はその松田選手の3秒のボーナスのために、前日の2位から1つ順位を落としている。もっと言えば、小林選手は第1ステージの中間スプリントポイントで1秒のボーナスを得ているので、4位の増田成幸に1秒差で3位という形となった。

こうした細かいボーナスタイム獲得の動きは、ステージレースを戦う上では必要なところではあるが、まずは欲しいステージ勝利という「勝ち」を狙うには、脚を使う中間の細かい動きは捨てなければならない場合もある。特に今回の宇都宮ブリッツェンは、戦術にバリエーションを持たせるには、駒が少なすぎた感は否定できない。その中での増田の総合4位は、できることを最大限やった上での、精一杯の成績と言えるのではないだろうか。

◾️必要不可欠となった宮崎の存在

 今回痛手だったのは、堀孝明、及川一総の途中リタイヤに加え、ツアー・オブ・ジャパン(以下TOJ)新人賞の宮崎泰史を落車で欠いたことだろう。第1ステージのわずか2周目での落車で、バイクを換えてリスタートしたが、ろっ骨も強打しており、タイムオーバーとなった。勝負にタラレバはないが、もし宮崎が最後まで走れていたら、増田の表彰台も、宮崎の再びの新人賞もあったのではないか。
宮崎は「リタイヤ後は補給などのサポートに回り、中継のレースも見たが、残っていれば第2ステージの2回目の千枚田は、増田さんと一緒に上れたと思う」と、悔しさをにじませる。第2ステージの最後は、強豪チームが2名ずつ先頭に入れている中、宇都宮ブリッツェンは増田1人での勝負となった。「千枚田に上る前も、キナンが攻撃し、チーム右京がコントロールしていたが、もしそこにいれば僕も攻撃に加わり、チーム右京に脚を使わせることもできたかも。第3ステージの勝ち逃げも、僕が乗れていたら良かったのかなと思う」と振り返る。ただ、マイナスなことばかりではなく、「補給所でレースを外から見て、隊列を使った集団復帰の仕方など、普段中継では映らないところも見られたし、集団内でのチームの固まり方など、すごく勉強になった」と前向きだ。今年加入ではあるが、すでに必要不可欠となっている宮崎。CT検査の結果、骨折もなかったとのことで、次の活躍に期待したい。

◾️増田の抜かりないベテランの走り

 チームが3人になっても、踏ん張りどころでしっかりと留まっているところが増田成幸のすごいところだ。第1ステージは苦手なスプリント勝負のステージだったが、タイム差のつかない集団でゴールしているし、第2ステージはチームで単騎になっても先頭に入り、上り基調のスプリントフィニッシュもタイム差ゼロで9人中7位(増田の後ろ2人はタイム差がついている)。第3ステージも、残り2周のメカトラブルで、バイク交換を余儀なくされたにも関わらず、総合順位に関係する選手と同タイムでレースを終えている。
総合4位の陰には、やるべきことは何かを見極め、それをやり切るベテランの勘と走りが存在する。また、TOJも熊野も無線の使えないレースのため、集団内で次の作戦を練り、指示をする役目を担うことも。今年はチーム在籍11年目。自身の勝利を目指しつつも、後進の育成にも力を入れる。「チームにはまだ課題があるなと感じた3日間であった」と言う増田。「ここ数年で、マトリックス、キナン、右京…、今回は愛三もいい動きをしていたし、強いチームが増えた」と振り返り、「僕たちも“強い宇都宮ブリッツェン”を取り戻すために、チーム全体で上げていきたい」。そして、ひとことポツリと付け加えた。「そう、強く思っている」と。

◾️「阿部ポジション」を貫く仕事人

 レース中、アシストの阿部嵩之が集団のどこにいるかと言えば、「阿部ポジション」にいると言っていいだろう。阿部は、いつも阿部がいるべき場所にいる。
今回のステージでそれが顕著に表れたのが第3ステージだ。1周目から積極的に逃げに乗り、その逃げがつかまったときにパンクをし、集団に復帰したらすぐに目の前にできた逃げに飛び乗る。力尽きて集団に下がったときも、これ不幸中の幸いか、増田の機材トラブルからの復帰をアシストしている。第2ステージのハイライトである札立峠では、増田と小野寺を好位置で上り口まで連れて行ったのも阿部。先述の通り阿部は、近年は年間勝利数ゼロの選手かもしれないが、それはプロの仕事人である証だ。
レース後に阿部は「TOJで一段上げられ、その状態で熊野に入ることができた。正直結果は残らなかったが、手応えはかなりつかめている。さらにステップアップさせ、全日本選手権に向けてトレーニングしたい」と語った。今度もどんな仕事を魅せてくれるのか、楽しみにしたい。

◾️アップグレード中のオノデライダー

 オノデライダーこと小野寺玲の今年の目標は、「ロードレースで勝つこと」。その夢はすでにカンセキ真岡芳賀ロードレースの優勝で叶えたが、ステージレースはどうだろうか。今オフは増田に稽古をつけてもらい、地脚の強化にも取り組んできた。その効果の現われか、今回の熊野で小野寺は、ひそかに自分の成長を感じていた。「以前より余裕が生まれており、よりチームの動きも意識できたし、周りも見えるようになっていた」と言う小野寺。ただ、まだ少し詰めが甘いそうで、「中途半端な立ち位置だと感じる。でも、目指している方向は間違ってないなと思うので、より強化して、勝利をもっと近づけられるようにしていきたい」と前を見る。
第2ステージの山岳コースでも増田のアシストに徹していたし、遅れてもライアン・カバナ選手(オーストラリア、ヴィクトワール広島、第3ステージ勝者)と必死で前を追った。その頑張りが報われたか、個人総合成績は19位。ステージレースで20位以内は初めてと言うから、小野寺のアップグレードはすでに進行しているようだ。

◾️おわりに

今回、TOJ、熊野と続けてレースに帯同したサイクルスポーツマネージメント株式会社副社長の廣瀬佳正が振り返りと今後の展望を語る。 「これまでフロント業務に徹していたため、スタッフとして全日程を共にしたのは初めて。そばにいて一番感じたことは、増田の経験と実力と、彼が背負っている責任。チームが3人になっても、各自の実力、コース、今の順位などなど、全部わかり切った中で、少しでも順位を上げ、宇都宮ブリッツェンの存在感、自身のキャリアを示す、最善の走りをしてくれた。だからこそ、もっとチーム力を上げられていれば、増田の熊野はこの成績では終わらなかったと、申し訳ない気もしている。
業界全体を見ると、時代が変わったと感じる。今回活躍したチームのように、外国人選手を入れて強化することは間違っていない。その状況は受け入れつつ、ワールドツアーで走っていたような選手のいるチームにどう戦って勝つのかを、危機感を持って考えなければならない。それでいて、勝つことが第一ではあるが、負けても愛され続けるチームとは何か。新たな時代に向け、価値のある勝利を作ることも意識させられた熊野だった。ただやはり、時代は変われど、地元企業に支えられている自分たちなので、地元の子どもたちをちゃんと育てていきたい。その上でのプロチームとしてのマネージメント。そのバランスをこのチームらしさで作っていきながら、新しい宇都宮ブリッツェンを魅せていきたい。引き続きパートナー様からの力をお借りし、ファンの皆様の声援を走りに変え、チーム強化に全力を注ぎたい。また今回、昨今の状況の中でツール・ド・熊野開催にご尽力いただいた大会関係者の皆様にお礼申し上げます。素晴らしい大会をありがとうございました」